チーッチーッ!カワセミだ。
俗に清流の青い宝石と呼ばれる彼らの姿は本当に美しい。
それをじっくりと見たいものだが、
人間を目の前にした彼らの動きは俊敏で、目で追うのが精一杯だ。
そういえば以前、この渓では銀ねずみを見たことがある。
正式な名前は判らないが、銀色に輝くどちらかと言うとモグラに似たねずみである。
その銀ねずみは急な流れを物ともせず、達者な泳ぎで上流へと消えていった。
まるで渓魚の様な速さで!
銀ねずみは本当に綺麗な清流にしか棲まないと聞いたことがある。
今、私が立っている渓が、紛れもなく綺麗な水を湛えていると彼らが言ってくれているのだ。

小気味よく、額に薄っすらとした汗をかきながら渓を楽しむ私と叔父。
大自然に身を任せ気持ち良く釣り上がってた2人の目の前に巨大な人工物が見えてきた。
この川で唯一無二の余計な代物だ。
ちょっと憂鬱になりながらも、水の流れを読みながら渓魚を追った。
遠くで微かに雷鳴が聞こえた気がした。
いよいよ例の人工物の前に来た。
人間はこれを堰堤、または砂防ダムと呼ぶ。
これが川にあると上流と下流が真っ二つになる。
特に北の川に生息する岩魚や山女魚の中には川と海を行き来する種がある。
岩魚は海に下るとアメマスとなり、山女魚はサクラマスとなる。
鮭も産卵の時に川に戻ってくるのは周知の事実だ。
その数千年から数万年も続いてきたであろう営みを
一部の浅はかな人間どもの所為で、ある日突然分断されるのだ。
生態系を全く無視した人間のエゴがここに見てとれる。
魚道を付ければ良いと安直な考えで作られてる堰堤でもまだマシで、
ただの巨大な壁だけの堰堤もある。
下流への土石流災害を防ぐためなどと言ってはいるが、
ものの数年で上流からの砂や枯れ木の堆積で埋まってしまう堰堤など、
何の役に立つのだろうか?
それのお陰で上流の魚影はどんどん少なくなっていく。
堰堤で堰き止められた上流の魚を人間が釣り上げてしまうからだ。
いつ行っても良く釣れると言う川の上流部は、殆どが漁協や愛好会が放流しているのである。
日本はキャッチ&リリースの精神を持っている人間が少ない民族だ。
そしてまた自然に対しても緩慢な精神しか持ち合わせていない。
だから自分が食べる必要以上に釣り上げ、魚を持って帰り、ゴミは平気で捨てる。
いとも簡単に山を崩し、川の流れを変え、公害をばら撒き、自然を破壊する。
若しかしたら、この地球上で1番要らないものは人間なのかもしれない。
ああ、また雷鳴が聞こえる。先程よりかなり近くに来たようだ。
堰堤があると例え魚道があっても、上流を目指す魚は必ず1度は止まってしまう。
そしてまた、堰堤前はプールになっている事が多く、魚影が濃い所でもある。
忌々しく思ってる堰堤も、釣り人の性を背負った者には絶好のポイントになる。
かく言う私も、その1人ではあるが・・・。
堰堤前の釣りを終え、申しわけ程度に付いた魚道を登って上流を目指した。
叔父は山菜採りからキノコ狩りと、山の達人の様な人なので、釣り歩くスピードも早い。
彼はあっという間に堰堤を越え、更に上流を釣り始めてた。
早く追いつかなくてはと少々焦ったその時、あの雷鳴が直ぐ傍に響き渡った!
これはかなり近い。もう直ぐそこだ。
響き渡る雷鳴に怯えながら魚道の半分まで来た時だった。
今までで1番大きな雷鳴が轟いた。もう駄目だと瞬間的に思った!!
あ・・・・・・・・・・・・・・・・ウ、ウンコ漏れそう(爆)
そう、あの雷鳴は私の下腹から響いていたのだ。
限界点をとうの昔に通り越してた私の下っ腹はエネルギー充填120%!
魚道の途中でズボンを下げるか下げないかの瞬間に波動砲発射!!
谷中に爆音が鳴り響いた・・・気がした。
一瞬、魚道の水が止まっちゃったんじゃないかという程の勢いだった。
幸せだぁ。俺は世界一の幸せ者だ。
現場はまさに天然の水洗トイレの様で、小鳥の声とせせらぎが心地良い。
自分はとてつもない爽快感と、やり遂げた感で満たされていた。
しかし至福の時はそう長くは続かなかった。
フィッシングベストのポケットを弄った時、衝撃的な現実を突きつけられてしまった。
ティ、ティッシュがない!
ケツ丸出しの私が、大自然の恵みでケツを拭こうと決意するには、
大して時間は掛からなかった。
目の前にはフキがよく茂っていた。北のフキは葉もデカい。
それを丁寧に4つ折りにして拭いてみた。なかなか良い具合である。
調子に乗って2度3度拭いてるうちに、心に油断と言う悪魔が滑り込んできた。
あ゛っ!?
中指が、4つ折りにしたフキの葉を突き抜けた。
私は魚道の途中でしゃがみながら、即身仏の様に固まった
ああ、初夏の陽が眩しい・・・
って言うか、この中指、どうしたら良いんだか(大汗)

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